銭湯の営業再開を核としたまちづくりの実践チャレンジ ~ラボ☆レポ|研究室訪問~|KANAIGAKUEN ACTION BOOK|金井学園

 

はじめに

 

大学の研究室(ラボ)を訪問してその研究活動を紹介(レポート)する「ラボ☆レポ #5」。今回は建築土木工学科の下川勇教授とその研究室の取組にスポットを当てました。同研究室では現在、「空き施設や空き家・空地等の遊休不動産活用を都市の課題として捉え、人口減少や少子高齢化が急激に進む中で問題となっているその都市それぞれが抱える課題の解決を目指す研究」を実践をしています。そのうちの一つの事例として machiYOKU と名付けられたプロジェクト活動を紹介します。

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machiYOKU  - 越前市若竹町を生き生きとしたエリアにする取組 -

福井県越前市若竹町は、昭和中期ごろまで打ち刃物職人町でした。しかしながら、業界自体の縮小による職人の減少や、産地振興策等の政策による職人の転居等で、徐々に若竹町に空家や空地が目立ち始め、景観も劣化しています。行政区として一般居住エリアに定めらるこの若竹町を「住める場所」として再生するために、「現代の職人町」をテーマとした遊休不動産の活用計画と修景計画の作成を目指す取組を行います。そして、この取組の通称を machiYOKU と名付けました。 (下川研究室 研究シーズ より)

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継体天皇ゆかりの上総社

初訪問の日 神社に咲くツツジ

昔ながらの雰囲気があちこちに残る越前市


 

machiYOKU  に関わる学生たち

 

このプロジェクトの実践メンバーは、全部で4人。工学部建築土木工学科4年生の玉村光さんと、新タ星奈さん。さらに、大学院工学研究科博士前期課程1年生の岩田時節さん。そして博士後期課程3年生の下中雄一さんです。

このメンバー4人と先生とで取組についてのお話をお聞きしようと研究室を訪ねたところ。。。

(下川先生) ― 

「私の研究室にはこの4人以外にも別の研究テーマを持つ学生がいて、放課後になる次々と研究室を訪ねてくるんです。学生たちには、日頃からなるべく自分で考えて行動して欲しいと思っていますから、最低限の助言しかしないようにしているんです。研究活動もテーマが決まったら計画は学生それぞれが立てますから、このプロジェクトをやっていても、全員で研究室に集まったり、若竹町に一緒に行くことは最近少ないんです。」

ということで、この4人の話はそれぞれの学生さんの都合に合わせて聞くことにしました。


研究室そばのフリースペースにて

左から 岩田さん、玉村さん、新タさん

大学院 博士後期課程の下中さん


 

◇ ◇ ◇

さて、そのメンバーの話を紹介する前に、 machiYOKU プロジェクトについてもう少し触れておくことにしましょう。専用のウェブサイトにはこんなことが書かれています。

 

(福井県越前市)若竹町は近年では空き家や空き地も目立ち、新しい何かが生まれる期待感を失っています。また、地域の人々が交流の場としていた越前市最後の大衆浴場城勝湯も平成29年9月に廃業しました。しかし、継体天皇にゆかりのある上総社、大正時代の数寄屋風書院の愛山荘がエリアの南北の両端をおさえ、奥ゆかしい雰囲気は残っています。中心市街地の近くであり、歴史街道として名高い北陸街道沿いという地の利もあります。なにより熱意のある地元住民が多くいます。いまだからこそチャレンジできること、それは廃業して日の浅い城勝湯にもう一度お湯をはり、再び地域の絆を紡ぐ場としてもらうこと、そしてそのコミュニティーに大学生も入り、空き家・空き地の活用方法や町並み景観を考え、実践するというチャレンジです。

 

そうなんです。廃業した町の銭湯を再生し、そしてその銭湯を核とした再生を提案する。このプロジェクトが、machiYOKUと名付けられた理由もここにあります。その銭湯の近くにある神明神社(上総社)や、打ち刃物職人が住んでいたという空家が並ぶ細い路地。城勝湯のあるその場所は、当時のままの佇まいを残していました。確かに歩くにはちょうどいい雰囲気の路地なのですが、逆に車社会となってしまった現在では、近所に住む人が減少するにつれ経営は難しい状況になっていくことは素人の私にもわかります。

再開を果たした城勝湯のご主人である松浦さんもずいぶん高齢となっておられるので、プロジェクトメンバーの下中さんと岩田さんは、番台のバイトやその他の運営などでサポートもしています。

 

メンバー4人にそれぞれ聞きました。
「現在、具体的にどのような実践活動をしていますか?」

 

(下中さん) ― 

「城勝湯が再開してからは、週の半分程度はお手伝いに来ていますね。おかげで、松浦さんから色んなことを教わりましたし、町の方々ともずいぶん顔見知りになりました。そんな日常はSNSでも発信しています。もちろん、博士論文を番台で書くこともあります(笑)。」 

(岩田さん) ― 

「僕も番台に立ちながら、ちゃっかりお客さんの情報を集めさせていただいています。どこから来たのか、どのようにしてこの銭湯を知ったのか、どんなことを望んでいるのか、銭湯だからこそ腹を割って話ができます。それ以外にもこの銭湯で様々なイベントを開催し町の方々に集まってもらう仕掛けもしています。そんな中から考察したことを修士論文にまとめられたらと思っています。また、こうした体験を活かして将来建築関連の仕事について、まちづくりのコンサルティングなどもできるといいなと考えています。」

(玉村さん) ―

「私は若竹町の空き地・空屋調査を卒業論文にまとめようと思っているのですが、先生はあまり細かいことは言いません。だからとにかく自分で考えて、自分の足で調べるようにしています。もちろん、困った時には先生に相談しますよ。実は就職も内定して、来年からは建築の現場に出る仕事をすることになるので、このプロジェクトを通じて多くの社会人との方と交わり、現場の感覚も学んでいきたいです。」

(新多さん) ―

「まちづくりの活動は、このプロジェクトに参加する前も経験がありました。このプロジェクトに加わってからは、城勝湯の再開の準備のために4月の連休も返上してお手伝いしましたが、かなり大変でした。また、銭湯の再開後にも、みんなで健康講座などを企画して、営業開始までの時間に脱衣場で開催したりしました。今は、この銭湯の近くにある空家を新たな交流スペースとして活用し、さらなる賑わいを創出できないかと考えていて、それを卒業論文にまとめたいと思っています。」

 

目の前に現実として横たわる問題と向き合い、町の方々と交流し、新たな提案を考えるいわゆるPBL(問題解決型学習)の究極のカタチを実践している学生たち。きっと素晴らしい成果を論文や発表、修景計画などの成果につなげてくれることでしょう。

 

◇ ◇ ◇

 


復活を果たした城勝湯

再開に向け学生が制作した倉庫

開業当時の雰囲気をそのまま残す浴場

 

地域をまなぶ 地域に学ぶ

 

この取材を始めたばかりのころ、研究の舞台である若竹町の城勝湯をどこかのタイミングで見学したいと思っていたら、下川先生からこんな提案をいただきました。

(下川先生) ―
「週末は色々な企画をしたりしていますが、平日の城勝湯はまだ常連のお客さんだけしか来ないことも多いんです。ところが今度、越前市東地区の小学4年生40名がお風呂に入りに来ることになっているんですよ。良かったらそのタイミングに城勝湯を見学しませんか?」

これは越前市東地区の公民館、越前市、福井県などと協同した「合宿通学実行委員会」主催の3泊4日の研修の一環で行われるものでした。小学生たちはこの研修期間中、公民館で宿泊しながら学校へ通学するというプログラムで、越前市内の各地区でそれぞれ行われているそうです。この日の引率も小学校の先生ではなく、地域見守り隊の方々や仁愛大学の学生によるボランティアなどがサポートしており、まさに「チーム地域学校」による校外学習の現場を見学することができました。

その日に対応のお手伝いをしていた大学院生の下中さんは、こんな感想をもらしていました。

 

(下中さん) ―
「今日は、地元の子供たちが本当にたくさんの地域の大人たちに見守られながら、大切に育てられているんだということがわかりました。再開からずっとこの城勝湯の営業もお手伝いをしていますが、今日のようにたくさんの子供たちが一度に来てくれたのは初めてのことです。いつか、この若竹町が毎日こんな笑い声で溢れるような町になるといいですよね。」

 


こういう銭湯は初体験の子供たちも多いようです

蚊取り線香が焚かれた番台

子供たちで大騒ぎです


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子供見守り隊ボランティアの方

元気に挨拶して公民館へ

お客さんと談笑する下中さん


 

まちづくり研究の実践 そのチャレンジはつづく

 

(下中さん) ―
「僕はこのまま研究が続けられるといいなと思っているんです。こうした取組を通じてまちづくりのことをもっと学びたいし、この研究を続けていくためには、できれば起業もしてみたいんですよ。」

地道な活動を続けながらも、下中さんの夢は少しずつ大きくなっています。しかしながら、一度始まった町の衰退の流れを変えるのはそう簡単なことではないことも実感としてよくわかっているはず。町の人たちと深く関わりながら、さらに若竹町への県外からの移住希望者、行政なども巻き込んだ下川研究室のまちづくりの実践チャレンジは、これからも続いていきます。

 


昔ながらのオガクズを燃料としたボイラー

machiYOKUメンバー集合写真はここ!

勢揃いした下川研究室の学生たち


 

(追 記)

最後の写真は、下川研究室の学生さんが城勝湯に集合したところ。この日は、大学の広報パンフレットの撮影があり、なかなか揃わないという学生が越前市に集合しました。結局プロジェクトメンバーのうちの全員と話ができたのもこの日。取材を開始してからずいぶん期間をかけたレポートとなりました。

 

【関連リンク】 machiYOKU ウェブサイト は こちら 

 

 

文 責: 金井学園広報|KEI NEWS STAND|
協 力: 下川研究室のみなさん

 


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